キラン・ミルウッド・ハーグレイブ著 「魔女」として死のうとも……彼女がくだした悲しい決断『The Mercies』
更新日:2022年7月22日
持ち込みをしたいなあと思いつつ、タイミングを逸してしまった作品を少しずつ紹介します。
もしご興味がありましたら、レジュメをご用意しますのでご連絡いただけると嬉しいです。
〇タイトル
The Mercies(刊行:2020年)
〇プロット
1617年ノルウェイのフィンマークのヴァ―ドを大嵐が遅い、牧師以外の村の男性が全員死んだ(史実)。主人公のマレンは婚約者と兄、父を亡くし、悲しみに暮れる。しかし、生きていくために、男性の担っていた仕事も女性のみでこなさなければならない。村の女性たちは海に出て漁をし、なんとか村を存続させる。
女性のみの運営が上手くいく村には「魔女」がいるに違いないと、スコットランドから役人が送られる。その役人はウルスラという妻とやってきた。間もなく、魔女狩りが始まり、女性たちが分断されていく。当初は先住民族のサーミ族を狙った魔女裁判が行われると思われていたが、狙われたのは村の女性たちだった。火あぶりに処される女性たち。ついにマレンも魔女として名前が挙がる。命の危険が迫る中、マレンとウルスラはともに惹かれ合い、愛を告白するが、その関係に役人が気付き……。
〇ジャンル、テーマ
歴史小説、クィアフィクション、レズビアンフィクション、
フェミニズム、魔女狩り
〇著者
キラン・ミルウッド・ハーグレイブ
1990年生まれ。オックスフォード大学卒。
英国人。絵本、YA作家、詩人としては多数の賞を受賞。
(カーネギー賞ノミネートも含む)
本作The Merciesが長編小説としては1作目。
〇本作品の評価
タイムズベストセラー、サンデイタイムズベストセラー
「アトウッドの侍女の物語ファンにはたまらない作品」
「サラ・ウォーターズ作品と似た読書体験」
ベティ・タスク賞受賞(35歳以下のデビュー長編小説の中で優れた作品に送られる)
amazon 3115レビュー(4.3)
goodreads.com 24725レビュー(4.01)
〇所感
1617年クリスマスイブの大嵐を起点にしたノルウェイの小さな村の史実に基づいた作品だが、事前の知識がなくても十分に内容の理解ができ、楽しめた。女性が抑圧される社会的状況から、一旦抜け出し(男性の死)自分の力で生きることを覚悟した女性たちが、そのパワーや自立心のために罰されるシステムを象徴的に描いた作品であるといえる。同時に、サーミ族迫害にも魔女裁判が利用されており、ボストンの魔女裁判などにもみられるこのおそろしいシステムの根底に思いを馳せることができる。
この作品の強みは、主人公マレンと恋人となるウルスラの温かい愛情と、ウルスラと彼女の夫の間に流れる凍るような憎悪、無関心、暴力の対比であると思う。常に温水と冷水が並行して流れている川を泳いでいるような気持ちになる。また、女性たちの関係を丁寧に描いている。欠点をあげるなら、丁寧に描くゆえに前半の進行が遅く感じられる点である。
〇参考